盛岡文士劇 -或いは切腹回避のためのれぽ-


12/3(日)午後2時半。

雪の仙北市を出発。
助手席には・・・何故かアテルイが座っています。

話を前日に遡らせてみませう。
スサノオの地元でわらび座ミュージカル「棟方志功 -炎じゃわめぐ-」がありました。
で、その時一緒に盛岡に行こうという話になった・・・のではなく、
会場を出てから
「私、明日文士劇行くの」
「俺も。夜の部」
「あら同じだね」
「じゃあ待ち合わせよう」
というような内容のメールが全編秋田弁でやりとりされ、
当日は終演後のわらび劇場ホール外で最終確認の電話をしてようやくスケジュールが
まとまったのです。

それはさておき。
この日は今年お初と言っていいほどの本格的な積雪でした。
おかげで
「気をつけて行ってくださいね」
といろんな方々に励まされ(?)ての運転。
順調に道を進んでいましたが、仙岩峠で瞬間的なホワイトアウトに遭遇した時は
二人がかりで喜んで声をあげていました。
「『仙岩峠心中事件』だな」
「『ふたりの間に何があったんだ?』なんて思われるよ〜」
「だはははは〜」
なんて脳天気に会話してましたが、お互い
「こいつとだけはイヤだ」
と考えていたであろうことは火を見るより明らかです。

このように何事もなく(笑)無事盛岡に到着。
アテルイは一泊コースなので、まずはホテルにお連れせねば。
チェックインだけしてもらって、さていよいよ盛岡劇場へ・・・
すみません、お約束のように迷いましたが^^;
早め早めの対策が功を奏し<コンビニで聞いただけですけど>ちゃんと到着できました。
あーよかった。

駐車場に車を預け、いそいそと劇場に向かったのが午後5時近く。
上演時間が延びているらしく、観客はまだ出てきていません。
ってことは、先生たちもまだということです。
「ちょっと座るか」
と、すぐそばの喫茶店でひと休み。
どーでもいい話をあーでもないこーでもないと交わしていると、ロビーの方からざわめきが
聞こえてきました。
どうやら終わったようです。

終わった後だとバタバタだろうから、何はともあれご挨拶だけはと楽屋にお邪魔してしまうことに。
スサノオだけではとても入れたものではないですが、何せ今回は
「歩く入場許可証」が一緒ですし(爆)、後ろからちまちまと尾いていきます。
ちょうど皆さんお食事中のところを押しかけた形になってしまいましたが、
先生は相も変わらぬ穏やかな笑顔で迎えてくださいました。
羽二重つけたまま、メイクしたままでカップ麺を持ってウロつく出演者の方々は、
極めてふつーに過ごしてらっしゃいますが、よく考えてみると<考えなくとも>
先生を筆頭に
北方謙三さんであるとか、
浅田次郎さんであるとか、
井沢元彦さんであるとか、
ひじょーーーーーにデラックス(爆)。
部屋の一隅にちんまりと座っているのは斎藤純さんだし。
そして隣にはアテルイが・・・
何でここにいるんだろう、私。
先生はお気を遣われてピンクのロースカツ弁当を勧めてくださったのですが、まさか客席で
広げるわけにもいかず、固辞してしまいました。
ぜひ、次回(笑)。←いつ

アテルイとは別々の席でしたので、終演後の待ち合わせを約束して席につきます。
今回は5列目のほぼ真ん中というなかなかに良い位置で観られるので
何気に嬉しい♪
現代劇「夫婦善哉<盛岡弁バージョン>」「口上」と続いて、いよいよ
時代劇「新撰組」の始まりです。


時代史マンガの白眉「風雲児たち」の著者みなもと太郎氏は、「冗談新選組」の中で
新撰組をこう表現していました。

ややこしい時代をますますややこしくした男たち

妙に納得してしまったのは、私が連中に対してあまり思い入れを感じてはいないからでしょうか^^;
今現在、新撰組という存在にどのような評価が下されているかは正直全く分かりませんが
時代の変遷を考えると彼らの為したことにどれだけの意味があったのか、
確かに首をかしげてしまうところではあります。
とはいってもどんな新撰組初心者より新撰組を知らないスサノオ。
深いことは考えず、とことんストーリーを楽しみませう。
そうこうしている間に舞台上には「誠」の文字を赤く染め抜いた隊旗が数枚。
何流というのでしょう、芝居小屋にかかるような独特のあの文字です。



「誠」かぁ〜。
これだけの数に囲まれていれば、先生も書き順思い出したかしら(爆)。

何て愚にもつかないことを思いめぐらせていると、いつの間にか開演の時間でした。


オープニング、隊士登場の瞬間は
「カッコえ〜〜〜
のひと言でしょうか。
士中随一の美青年にして、実はキレキャラの原田左之助。
シニカルさと冷静さとで隊の全てを見つめる永倉新八。
天才剣士の誉れ高くも、どこか憂いを帯びた沖田総司。
最期まで己の本性を捨てられなかった井上源三郎。
そして、

名うての荒くれ集団を束ね、武士よりも武士の魂に近づこうと命をかけた近藤勇。
その近藤に心底惚れこみ、共に戦おうと力の限りを尽くした土方歳三。←これが先生
いよっ!と大向こう張りたいくらいの男っぷりです。
出の場面でガツン!と一発くらわせられたものですから、一体この後どうなるんだと思っていると
これが意外。
比較的ゆったり(?)としたテンポの場が暫し続き、お〜これは隊士たちの青春群像劇(笑)が
繰り広げられるのかと身構えれば、
いきなりきましたよ。
うそっ、このまま行っちゃうわけ???・・・

行っちゃいました。
本日のメインイベント第一弾、池田屋騒動

そりゃですね、いくらスサノオでも「玄人はだし」とは言えないです。
が。
今まで拝見した殺陣の中では秀逸だったのでは。
お芝居などでは必ず再現されるあの階段、勿論ちゃんと設えられていますが、
その上に槍を構えてすっくと立つ左之助は、一瞬<一瞬でしたが>
プロか?と思うほど姿がきまっていました。
皆さんどこかでよく観た身のこなしも何となくありつつ(爆)、去年までとは明らかに違っています。
攘夷派の武士に対する時の総司は持っている刀と同じくらい怜悧。
「壬生狼」と恐れられた新撰組の、分けても剣の腕は超一流と言われた彼の屈託ない残酷さが
垣間見えたように思いました。

以降もメインイベントはもりだくさん。
特に舞台が箱館に移ってからラストまで、怒濤の場面が目白押しです。
先日掲示板でも写真がアップされていましたが、ああいった場面を直に観られたのは本当に
幸運でした。
次回がもう楽しみになっています。

会場中の耳目を集めたのは、やはり鉄之進くんでしょうか。
この前髪立ちの紅顔可憐な美少年を演じた方は、後でお聞きしたところ23歳という若さでしたが
暦とした武士の出という身分に甘んじず、自らの手で時代の流れを変えてゆこうと雄図を抱く
若武者の役に体当たりでぶつかっていました。

しかし貫禄なのは北方謙三さんです。
「立ってるだけであれだもんなぁ〜」
と、アテルイがめちゃ感心するほど。
そう、何も言わなくても黙って睥睨するだけで、もう
「すいません」
と謝ってしまいそうになる押し出しです。
そのうえ・・・<そのくせ?>とってもお茶目な部分もおありで、
セリフをど忘れしてしまった時のリアクションは特筆ものでした。

「江戸から京へ出て早や5年・・・」 ※「来て」だったかもしれない
・・・
後が続かない。
わんすあげいん。
「江戸から京へ出て早や5年・・・」

・・・

「江戸から京に・・・」(以下同文)

北方勇氏、結構露骨に周囲を見回します。
眼で縋ってます。
居並ぶ隊士のお歴々、局長の一大事というこの時に

誰も助けない。

なのに。
近藤氏、奇跡的にセリフを思い出したのですから・・・
おさすがです。←なのか?

そして肝心の。
高橋先生の土方・・・
いやお見事。メイクが(違)。
「鬼の副長」歳さんが持っていた志、仲間との確執の中での痛み、
新撰組解散を突きつけられての悲憤、それらがとても丁寧に描かれていて、
観ているこちらも瞬きが惜しいくらいでした。
お牧さんとは相変わらず丁々発止のやり取りですし、かといって五稜郭の場面はいつになく(爆)
ロマンティックです。
良くも悪くも時代の流れに身をまかせられなかった土方という男は
何を探し、誰と歩きたかったのか。
スサノオには知るべくもありませんが、この舞台のようなことが本当にあったとしたなら
彼も少しは幸せだったのではないかなと思いたい気がします。

始まってしまえば時間はすぐに過ぎるものですね。
白い光と圧倒的な紙吹雪に包まれてのエンディングは信じられないほどに悲しく、美しすぎ。
溢れ出てくるものをどうしても禁じえることができません。
これだけの舞台を見せてしまって、来年はどうなるのか余計な心配もしてしまいますが(^^;
感情の起伏も涙の量も格段に違う文士劇でした。


                                  建速素戔嗚拝



P.S
終演後打ち上げにチラとお邪魔したのですが、その席で先生ひと言、
「ACT9からは今年観に来たの他にうりこ君たちだけだったからな」。
はい?
「レポ書けよ、命令だぞ
・・・はい?
そ、それって・・・

書かなきゃ切腹っすか?

そんなの局中法度にないじゃん

ってなわけで、
わけ分からんタイトルはここに由来するのでありました。