不思議なふたり 〜高橋喜平・雪人 雪の世界展ギャラリー・トーク〜
2/13(土) もりおか啄木・賢治青春館にて
玉子魔人をはじめ、先生のエッセイを読んだことのある方なら
先刻ご承知の
「先生と一緒にヨーロッパ旅行をした従兄さん」
若しくは
「『写楽殺人事件』に出てくる
悪い骨董業者」…
そうか、この方でしたか。
実際、「写楽ー」が出て以来、雪人氏のお店には
「
買わないお客」が多数つめかけたのだそうな。
そして氏を見つけると
「
あ〜悪い人」
いやそれはないだろう^^;
そんなキッカケをつくってしまった先生といえば喜平氏から
「(賞をとるのは)そんな甘いもんじゃない」
一蹴されていたそうで
「(乱歩賞)とれたら
裸で盛岡の町一周してやる」
と言われていたのが、いざ受賞してみると
「いくら何でもそれは言えなかった」
そうで。
そりゃそーです。そーですとも。
いつにも増して大勢のギャラリーがつめかけた中、のんびりと始まったトークは
まさかあんなにも全方位的な広がりを呈そうとはその時点で気づくはずもなかったのですが。
「どう考えても喜平伯父がカメラに熱中していた記憶がないんですよ」
と、まずは氏が残された膨大な写真とその撮影方法等々について語りだした先生。
「ピントは凄く合いに合ってんだけど」
「決して高価なカメラを使っていたわけではなく」
「その上撮った写真に関するデータが残っていない」
など
「…この話、長くなるよ?」
と、隣の雪人氏に念押ししつつ。
そう、この段階で爆笑アワー<何それ^^;>の扉は半分開いてたようなものでした。
写真を見ながらデータを割り出していき、そのとおりに験してみたら
正に喜平氏と同じような撮影ができた。
考えてみれば当たり前なことであるが、伯父は芸術作品としての写真を目指していたのではない。
では何故こんなに美しい写真がたくさんあるのかといえば
結局イリオモテヤマネコを探してる人とおんなじ。
どの季節、何時くらいにどこにいけばこういう写真が撮れると熟知していたからに他ならない。
と、じっくり語ってくださいました。
じつに濃いその内容に、続いてマイクを握った雪人氏。
「対談(相手)を克彦にしたのは
大失敗だった」
とポツリ。
これには会場中が大爆笑。
「(自分が)話そうとしていたこと全部やられちゃいましたよ」
思えば、進行役の女性も
聞きようによっては
「いくら何でもそれムチャぶりぢゃないすか」
とツッコミ入れたくなりそうな隠し玉的質問を投げてたのです。
「おふたりはイトコ同士ということで、やはりお小さい頃は野山かけめぐったりしたのですか?」
…はい?
野山??
…久々に聞いたなぁ「野山をかけめぐる」ってフレーズ(^^;
先生に限ってそれはどうでしょう?と勝手な想像してましたが、案の定というか
おふたりとも異口同音に
「山形と岩手でしたから、一緒に野山は…」
と苦笑なさってました。
とはいえそこはほら、イトコですから。
お互いの性格はかなり細かいとこまで把握してるらしい。
「この人はね、多分
この世で一番面白い」
と先生。
出た。
お得意の「この世で一番」。
しかもその後の「落としどころ」もしっかり。
「話の広がり方が…」
と持ち上げといて
「文章力は
ヘンだけど」。
えええっ。
「そりゃ文章が未熟でヘンな人はいっぱいいますよ。だけどこの人は
ちゃんとしているのにヘン」
駄菓子菓子。
雪人氏もヘンヘンと言われるばかりでオトナシクしているはずがない。
「(子供の頃)寺で会うとですね『お墓の方で青い光を見た』とか『お化けを見た』とか
しょっちゅう言ってんですよ。ヘンな奴だなぁと思ってた」
…
まぁ
どっちもどっちというヤツですね(^^;
喜平氏が為された膨大な偉業の数々も勿論話題にのぼっているのです。
雪輪文様の時代ごとの変遷や、名だたる著名人との交流など、
興味深い話題もテンコ盛りでしたし。
実際会場にはそういう人々からの書簡がいろいろと陳列されていて
中には与謝野晶子からの
「水茎の跡も麗しく」たる手紙もあったりとか。
ですが。
何せ合い間合い間のフリートーク(?)のおかしみがどうしてもインパクト強くて。
すみませんどうしてもそちらの方の記憶のみが鮮烈なのです。
中でも秀逸だったのは、何といってもかの「
ビートルズ問題」。
ロンドンで憧れのビートルズと対面することができ、確固たる証拠として
写真撮影もしたのに、あろうことかそのカメラを紛失してしまったのでしたが…
「翌日パリに行って、その時
メトロで盗まれたんですよ」
とおっしゃる雪人氏に先生、
「いや、おたく
自分に都合よく記憶を塗り替えてるよ」
場内爆笑の渦・渦・渦…
「あの後さ、帰ろうとしたけど電車がすごく混んでたからとりあえずパブ入って
『ビートルズに会えた』ってんでビールで乾杯したんだよ」
「…」
「で、酔ったから近くの公園でベンチ座って酔いを醒まして、さあ帰ろうってなったその時
おたくベンチにカメラ置き忘れたんだよ」
雪人氏、やっとひと言。
「…それは
捏造だ」
場内、爆笑やまず。
「自分の責任にしたくなくてさ、話がメトロになっちゃってんだよ(_ー_)」
と勝ち誇ったかのごとくな先生。
誰かとめろ、このふたり(^^;
でも何だか無性に羨ましい。
私は年の近いイトコとは遠く離れて住んでたものですから
こんな風に濃ゆい関係を構築することはありませんでした。
同世代だけど兄弟ぢゃない、でも近い間柄。
いいなぁ、こういうの。
真面目な話題とそうではない話題の振り幅が
あまりにも大きかったこのギャラリー・トーク。
こんな記憶の残り方ってお世辞にも褒められたものではないだろけうけど…
奇を衒うことなく有りのままで途轍もなく大きかった喜平氏の存在が
今ここにいるお二方を導いたと気づかされた、不思議な温かさを感じたひと時でした。
建速素戔嗚拝